ドクターコラム

トレチノインによるしみ治療

東大式トレチノインとQスイッチルビーレーザーで殆どのしみの治療が出来ます。
どちらか、あるいは併用することもあります。是非ご相談下さい。

  • トレチノイン療法     松田知子皮膚科  092-807-1221
  • Qスイッチルビーレーザ- 松田ひふ科    092-322-1212

 


進化するしみ治療

しみは皮膚の老化の一種です。40歳を過ぎると『しみひとつない』方のほうが稀だと思います。治療するかどうかはそのかたの価値観の問題なので、治療しなくても問題はないと思っています。また、今までは、ある種のしみに対してはQスイッチルビーレーザーが非常に有効な例もありますが、レーザ-の効かないしみも多かったのが現実です。そのため、健康食品や民間療法はじめ、全く根拠のないものに多額のお金を使って、結局は諦めてしまう方が大半でした。また、かぶれなどをおこして私達皮膚科を訪れるかたも多くありました。

また、Qスイッチレーザ-はしみ治療の奇跡だと思います。皮膚を傷つけることなく、しみやあざを取り去ることができます。ただ、レーザー照射後に炎症後の色素沈着を起こしてしまうことがよくあります。これは時間がたてばそのうち取れますが、せっかくしみ治療をしたのに、前よりもしみが濃くなっては、それが短期間であっても、患者さんにとっては納得がいかないことです。

Qスイッチルビーレーザ-で取れないようなしみ治療を可能にしたのがトレチノイン療法です。簡単にいうと表皮性のしみ(メラニン)はトレチノインで落とし、真皮性のしみ(病的メラノサイト)はレーザーで取り去るということです。両方のしみのある場合は表皮性のしみをトレチノインで落としてから、真皮のしみをレーザーで破壊するとということです。

どちらを使うか、あるいはどちらを先に使うかはしみの種類によって違います。最近は低出力のレーザーやIPLが流行です(当院でも低出力Qスイッチヤグレーザ-を設置しております)が、確実にしみをとるために、理論的な裏付けのあるのはトレチノインとQスイッチルビーレーザー治療です。この2つを適切に使うことによって、しみ治療が格段の進歩をとげました。

 

(図)吉村先生のホームページより引用

Ia :表皮基底層メラノサイト(正常)のメラニン産生能の亢進、基底層のメラニン産生が主体のもの

  • 老人性色素斑 肝斑 偏平母班 そばかす 炎症後色素沈着

いままで治療がむずかしいといわれていたり、レーザー治療後にいわゆるレーザー焼が起りやすいとされていたものですが、トレチノインで非常に良い結果が得られています。偏平母班は治療の難しいあざですが、子供の顔でファーストチョイスとしてやってみる価値があると思います。なぜなら、色素脱出や瘢痕を起こすことがないからです。

Ib:Iaに角質の肥厚を伴ったもの

  • 老人性角化症 脂漏性角化症

角化の著しいものは、まず、Qスイッチルビーレーザーをおこなってからトレチノインを行います。範囲が広く、部分的に角化している範囲が狭い場合はトレチノインを行ってから出来るだけ狭い範囲にトレチノインを行なったり、液体窒素による冷凍凝固療法を併用することもあります。

II:基底層のメラニン産生能の亢進は認めないが、基底層や真皮にメラニンの沈着を認める。

  • 摩擦黒皮症 リール黒皮症 アトピー性皮膚炎の炎症後色素沈着

長期に渡る炎症による色素沈着で、表皮性のメラニンをトレチノインで落としてから、真皮性のメラニンをQスイッチルビーレーザーで処理する。このとき、炎症が充分にとれていることの確認が重要です。

III:基底層のメラニン産生の亢進と、基底層と真皮のメラニン沈着

  • 真皮性肝斑 老人性色素斑に真皮性メラニンを伴ったもの

表皮性のメラニンをトレチノインで落としてから、真皮性のメラニンをQスイッチルビーレーザーで処理する。

IV:基底層のメラニン産生の亢進と基底層メラニン沈着、真皮内メラノサイトーシス

  • 後天性真皮メラノサイトーシス

表皮性のメラニンをトレチノインで落としてから、真皮性のメラニンをQスイッチルビーレーザーで処理すると、炎症後の色素沈着をおこすことなく、効率よく治療が進みます。組織的には太田母斑と略同じですが、見た目は肝斑やそばかすとよく似ているため間違われやすい。トレチノインで前処置しても見た目には殆ど変化がないので、確かな診断と理論的にきちんと理解することが大事です。

V:真皮内メラノサイトーシス
  • 太田母斑

Qスイッチルビーレーザーが治療の主体になりますが、1~2回の照射後に炎症後色素沈着がおこって以前よりも濃くなったような印象をうけることが知られています。レーザー照射前にトレチノイン療法を行うとレーザーの効率が増す。

トレチノインは御自分で毎日トレチノイン他をつける治療法ですが、その時に幾つかのポイントがあります。トレチノインによる皮膚の良い『剥け』なのか『かぶれ』なのかを区別することが最も大切です。そのためには最低2週間に一度の来院が必要です。吉村先生のホームページも御覧下さい。

 

 

しみ治療 2つのレベル

最近しみ治療に凝っています。今までも患者さんの感心の高さと要望の多さでどうにか出来ないものかと、常々思っていたのですが、医療レベルといわれるものは、Qスイッチルビーレーザ-しかありませんでした。ただ、これも、肝斑や炎症後色素沈着には無効でした。また、老人性色素斑はとれるのですが、直後に炎症後色素沈着(レーザ-焼け)を起こし、それが落ちるまでに数カ月もかかってしまうことが、よくあって、なにか、良い方法はないかと思っていたのです。

患者さんは化粧品やエステ、民間療法に頼ってしまうのですが、こちらに決め手がないので、みすみすお金と時間の無駄だと思っても、止めることが出来ませんでした。『あまり効果は無いかも知れないですが、ビタミンCでも飲んでみたら如何ですか?』というのが真っ当な皮膚科医=1年前の私の対応でした。

 

医療レベルとしてのしみ治療

それが、トレチノイン療法に出会い、医療レベルとして充分に対応できるものであることを理論的にも、実践的にも確信しています。レーザ-焼けを起こすことがなく、ガーゼをあてる必要もないので、普通の生活をしながら治療ができ、広範囲でも10万円程度の費用ですむので、Qスイッチィルビーレーザ-よりも安くてすむことが殆どです。また、肝斑と老人性色素斑が混在しているような方も多いので、老人性色素斑はレーザ-できれいにとれているのに周りに比べて白く白班のように目立ってしまうというトラブルがおこることもありません。

が、レーザ-でないととれないしみ(あざ)というのがあるのも事実です。太田母斑は当然ですが、後天性真皮メラノサイトーシスという見た目は茶色のしみ(肝斑と間違われやすい)組織は太田母斑に非常に近いという不思議なしみなどがそうです。

ところが後天性真皮メラノサイトーシスにレーザ-を当ててしまうとレーザ-焼けを起こしやすく、泥沼に陥ってしまって患者さんの信頼を失ってしまうということが、ままあったのです。

後天性真皮メラノサイトーシスにはまず、トレチノインで表皮のメラニンを落としてからレーザ-を打つと、スムーズに治療が進みます。また、レーザ-焼けを起こしてしまった老人性色素斑=炎症御色素沈着はトレチノインで速やかに落とすことができます。まさに、洗練されたしみ治療と呼べると思います。

このようにQスイッチルビーレーザ-がトレチノインの存在によって本来の魔法の力を充分に発揮できるようになったといえます。

エステレベルのしみ治療

ところが、日本人はファジーなものが好きという傾向があると思うのです。なにも美容に限ったことではありません。血圧、癌、糖尿病も健康食品で治そうという人が後を断ちません。専門外なのですが、大丈夫なのかと心配になることがあります。

しみ治療の場合も、レーザ-でガーゼをあてるのはもちろん、赤くなったり、むけたりするのが、嫌だとおっしゃる方が意外に多いのです。効くのが恐いとおっしゃる方もいらっしゃるのです(笑い)
命にかかわることではないので、治療を強要することはありません。治療法を選ぶのは患者さん自身です。

そういう方には、低出力のレーザ-(レーザ-ピーリング)、ビタミンCイオン導入、高濃度ビタミンC化粧水、などなど...多少の効果はあるかも知れません。お肌はきれいになります。ピーリング効果、保湿効果は医師の眼でみて、これならというものを用意しています。もしかしたら、しみが薄くなるかたがあるかも知れません。

しかし、しみが消えるというレベルではありません。少しは、薄くなるくらいに考えて下さい。スペースに限りがあるので、リラックス効果はありません。残念ながら○○エステに通っているというステータスもないでしょう。エステレベルのしみ治療としては効果と安全性は最高レベルだと自負しています。

費用

診察料、飲み薬 及びその投薬料以外は私費となります。
初回費用:¥50,000(トレチノイン、ハイドロキノン、ビタミンCローション、日焼け止クリーム各1本を含む、税別)

次回からは、足りなくなったものを買い足したり、濃度などが合わない場合は新しいものを買って頂くことになります。再診料は飲み薬など、保健での投薬が必要なときのみです。トレチノイン治療中は基礎化粧品はVCローション、日焼け止め(これは初回の料金に含まれる)と化粧水、必要に応じて美容液しか使いませんので、基礎化粧品代は殆どいるません。

トレチノイン療法はただ薬を付ければよいというものではありません。しみの部分は剥けないととれませんので、個人差はありますが、多少はつらい時期もあります。心配な時は何度でもご来院下さい。メールでも結構です。トレチノインの原理を良く理解し、御自分の肌の状態をみながら、症状にあわせて行うことが成功につながります。
きちんとした診断と理解があれば、必ず、しみ治療は成功すると思います。

 

しみ治療Q&A

トレチノインで、一度とれたしみは2度とでてきませんか?

申し訳ありませんが、また、出てくることは考えられます。しみは、皮膚のさびだと考えられています。自転車のさびと同じと考えて下さい。自転車なら新しいのに買い替えることが出来ますが、お肌の場合にはその選択はありません。トレチノインでさびを落とし、リセットしたら、今度はまたさびないように、しなければなりません。ターンオーバー(皮膚が生まれて垢になって落ちる期間)を、ベストの状態(4週間)に保つために、日々の努力が必要といえるでしょう。


副作用が心配です。

副作用として、考えられることは、まず、アレルギーを起こすということです。トレチノインやハイドロキノンそのものよりも、基剤(混ぜる軟膏やクリーム)にかぶれる確率が高いと思われます。それと、剥けがはじまると、新しい皮膚は胎児の皮膚のようにデリケートです。化粧水や洗顔料などにもかぶれやすくなります。ですから、トレチノイン治療中は無駄なものは極力避け、必要なもののみたっぷり使うことが大切です。
また、良い剥けが起こって赤いのか、かぶれて赤いのかその区別が最初は難しいと思います。最低、2週間に1回は来院して下さい。心配なことはどんどん質問してください。
当院では初診時に今使っている化粧水と日焼け止めを持ってきて頂くようにしています。


妊娠中はしてはいけないということは、結構危険なのですよね。

チガゾンという飲み薬を内服中に妊娠すると奇形児が出来やすくなるということが知られています。トレチノインもチガソンもビタミンA酸の一種で親類のようなものです。外用で吸収される量は僅かですが、トレチノイン治療中は避妊をしてください。トレチノインを中止すれば翌日でも妊娠してかまいません。


費用は幾らくらいかかりますか?

治療を始める時に7万前後かかります。トレチノインもハイドロキノンも保険外になります。かぶれにくく、トレチノインの効果を妨げない、化粧水や日焼け止めも必要になります。


太田母斑も治ると聞いたのですが?

太田母斑の本体は真皮内のメラノサイトです。これは、Qスイッチルビーレーザ-などの高出力のレーザ-でなければ破壊できません。が、表皮や真皮浅層のメラニンを先にトレチノインで落としていくと、レーザ-焼(レーザ-照射後におこる炎症後色素沈着)が起こりにくく、レーザ-治療がスムーズに進みます。


ケミカルピーリングと同じようなものですか?

ケミカルピーリングとは酸の力で、角質を溶かすことです。その結果新陳代謝が良くなってターンオーバーが4週間に近付き、しみが出来にくくなると考えられます。が、ターンオーバーが4週間以下になることはないので、今あるしみを追い出すことは難しいと思います。トレチノインはターンオーバーを2週間位まで速めると思われます。全く別のものです。


皮膚科でビタミンCとEを貰って内服していたのですが、無駄だったのでしょうか?

申し訳ありませんが、保険診療ではビタミンCやEを内服するくらいしかありません。しみは皮膚のさびだと言いましたが、さび=酸化を防ぐのがビタミンCとE、それにCoQ10という酵素だといわれています。ただ、内服してどの程度表皮基底層に届くかは疑問です。身体全体の老化を防ぐ作用はあると言われています。
もし、内服していなければもっとふえていたかも知れません。


お化粧はできますか?

紫外線を防ぐことが大切ですので、メイクアップはむしろしたほうが良いです。が、基礎化粧品のなかには使わない方が良い物もあるので、今お使いの化粧品を初診時にお持ち下さい。


太田母班か肝斑か解らないと言われました。そんなことがあるのでしょうか?

太田母班は色が青黒く、肝斑は茶色いのが普通ですが、太田母班でもメラノサイト(メラニンを造る細胞)が少ない場合は当然色が薄くみえます。また、浅いところにメラニンがたまっていると、真皮のメラニンの色がカバーされて見えなくなるので、浅いところのメラニンの色(茶色)が見えていることがあります。
真皮にメラノサイトが存在するかどうかということは、色もですが、境界が鮮明かどうかということが目安になります。深いところにメラニンやメラノサイトがあると 境界が不鮮明にみえます。
区別の付きにくいしみに後天性真皮メラノサイトーシスというしみがあります。真皮にメラノサイトがあるので、太田母班と同じとという説もありますが、私個人としては区別したいと思っています。これは、レーザ-のみではうまくいかないのですが、トレチノインで表皮のメラニンを落としてからレーザ-治療をするとスマートに治療できます。
形成外科のみでなく、しみ治療をしていない皮膚科も受診してみるのも良いかもしれません。診断は確かな先生も多いものです。
また、傷がついてよければ、皮膚生検をすれば診断は確実です。