疥癬(かいせん)
現在悩んでいる方はざっとで良いですから、最後まで眼を通して下さい。
ヒト疥癬虫(別名ヒゼンダニ)というダニの一種が皮膚に寄生しておこります。疥癬虫は大きさは雌の成虫で0.4mmくらいです。 蚊やノミのように刺して血を吸うわけではありません。卵は3~5日で孵化し、幼虫は脱皮をくり返し、若虫を経て2週間ほどで成虫となり、オスとメスが交尾したあと、メスが皮膚の角質の中をトンネル(疥癬トンネルと呼ばれます)を掘り進みながら、1か月くらいのあいだ、毎日2個から4個の卵を約2ケ月間産み続けます。
乾燥に弱いので、人間の皮膚を離れて床に落ちた疥癬虫は通常の室温、湿度下では1日が限度といわれています。
人肌の温度でないと動作が鈍くなり、37℃だと1分間に2.5cm動くと言われているが、人体を離れるとぐっと動作が鈍くなり、16℃ではまったく動かなくなる。足の構造の関係で布地をかき分けて中には潜れないので、布団綿のなかに潜ったり、長袖の衣服をかき分けて人肌に取り付く能力はないと言われている。疥癬で発疹ができたり、かゆくなったりするのは虫体や糞に対するアレルギー反応によると考えられており、ある程度虫が増殖して、感作されるまで皮疹を生じません。つまりヒゼンダニが体に住み着いてもすぐには皮疹が出ません。これが潜伏期で、だいたい1か月くらいです。ノルウェー疥癬から感染する場合の潜伏期間は7日前後です。治療を開始して疥癬虫が患者の身体からいなくなってもしばらくかゆみや小さなしこりが残ることがあります。かゆみは夜中にひどくなるのが特徴です。
治療が始まると疥癬虫の数は激減し、感染力も急速に低下します。
発疹、好発部位と特徴
小さい赤い丘疹
腹部・胸部・腋窩・上肢屈側・大腿内側 に好発するが、疥癬虫の抜け殻、糞などに対するアレルギー疹であり、発疹の部位に虫体はいない。
疥癬トンネル
手掌(手関節部)・指間、陰股部、腋窩、臀部、足にもみられることあり 細いわずかに盛り上がった線状の皮疹。疥癬に特有の発疹で、メスのヒゼンダニが卵を産んでいる場所。
疥癬結節(しこり) 陰茎・陰嚢・腋窩・肘頭・臀部
赤褐色で小豆大のしこりで、治療により疥癬虫が死滅し、他の症状が軽快してからも数ヶ月にわたってそうようが残ることがある。虫は通常いない。
診断
疥癬トンネルや結節をメスで削るか、はさみで切り取って真菌検査の要領で検鏡をする。疥癬虫、卵をみつければ、確実です。皮疹はほとんど無いのに、たった1個の水疱から虫が見つかる場合もあります。
疥癬がみつからなくても、状況上強く疑われる場合が難しいです。
感染経路と感染力
疥癬虫に寄生されている人と密接に接触することでうつります。疥癬虫は乾燥に弱く、人間の体を離れると比較的短時間で死んでしまうので、密接な接触がないとうつらないのです。たたみ部屋で川の字に寝た方が別々のベッドに寝たものより感染しやすいといわれています。同居している家族が感染することが多いのはこのためです。
また寝具や衣服を洗濯しないで共用したりしてもうつることがあります。当直をする職場で同じベッドを共用するときは注意が必要です。また、患者と同居している家族の方には症状が出ていなくても一家で治療してもらうよう勧めます。入浴の順序は、診断直後のノルウェー疥癬の患者以外は入浴の順序が前後してもさして大きな問題ではありません。
清掃 通常の疥癬では床の消毒、殺虫剤の散布は必要ありません。
ノルウェー疥癬
その病態から角化型、過角化型、痂皮型などとも呼ばれます。ノルウェー疥癬も普通の疥癬もおなじ疥癬虫によっておこるのですが、患者のからだに取り付いている疥癬虫の数がまったく違います。ふつう疥癬の患者についている疥癬虫は重症でもたかだか1000匹くらいですが、ノルウェー疥癬では100万匹にもなります。寄生している虫体の数が多いので感染力が強く、病棟にひとりノルウェー疥癬の患者がいれば、あっという間に医療スタッフ、他の患者にも感染します。ノルウェー疥癬の患者は隔離が必要です。しかしノルウェー疥癬の患者から感染してもおこるのは通常の疥癬です。
ごく普通の人がノルウェー疥癬にかかることはなく、老衰、ガン末期、重症感染症などで免疫不全状態の患者。副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤服用者。通常の疥癬に副腎皮質ステロイド外用剤を誤用した免疫力低下状態の人が疥癬にかかったときにおこります。
ノルウェー疥癬の症状は手や体の骨ばったところ、摩擦を受けやすいところにきわめて厚い汚い鱗屑が蠣殻状に付着。頭部や耳介にも発疹。カユミをまったく訴えないこともあります。
ノルウェー疥癬発生時の感染予防措置、患者隔離
ノルウェー疥癬患者は個室に隔離します。患者を隔離する際、それまで使用していたベッドには虫体がついている場合があるので、ベッドごと移動してください。ベッド、床、壁、カーテンなどはノルウェー疥癬患者が退室後、立ち入り禁止にして2週間待てば、人体から離れた虫体がすべて死滅しますので殺虫剤の散布は不要です。ノルウェー疥癬患者が使用したものを別の患者がすぐに利用せざるを得ない場合は、熱処理を加えるか、それが不可能な場合は疥癬に効果の高いピレスロイド系殺虫剤であるペリメトリンを含有するエアゾール(市販品ではゴキブリジェットなど)などを噴霧してから用いてください。または同じくピレスロイド系殺虫剤(スミスリンという商品名のものが入手しやすい)を1回だけ散布します。スミスリンは粉状の薬剤であり、使用の際はごく薄く散布し、しばらく置いてから掃除機で除去するとよいでしょう。
診断されて間もないノルウェー疥癬患者のケアを行う際は、手袋および長袖の予防衣(ガウン)等を着用するようにしましょう。疥癬虫には虫除けスプレーは無効です。
消毒の方法
できるだけ早期に石鹸と流水による手洗いがベストですが、それが不可能な場合は酒精綿や50%アルコールのスプレーを手指に使用します。
オムツ交換、衣類交換
落屑の中には疥癬虫が潜んでいるかもしれないので、オムツ、衣類を交換する際はなるべくホコリが飛び散らないようにします。普段から脱いだ衣類はポリ袋等に入れて洗濯場所まで運ぶようにしてください。袋を使用するのはあくまで落屑が飛び散るのを防ぐためですから、再使用してかまいません。洗濯 毎日下着とシーツを交換し、洗濯します。できれば乾燥機にかけると良いです。ただし診断直後のノルウェー疥癬の患者の衣類には大量のヒゼンダニが付着している可能性があるので、洗濯する物は50度以上のお湯に5分以上つけてから選択して下さい。
入浴
通常の疥癬は風呂で感染しません。しかしノルウェー疥癬では多数の疥癬虫や卵を含む落屑が浴室、脱衣室などで飛び散り、あとから入浴する利用者にうつる可能性があるので、ノルウェー疥癬の患者は最後に入浴してもらい、職員も手袋をつけてケアした方がよいでしょう。体に直接触れるタオルの共用は感染の危険があるので、体に直接触れるタオルは利用者ごとに替えてください。特別養護老人ホームなどで集団で入浴していただく場合、脱衣場のベンチや椅子に敷いているタオルも利用者ごとに替えた方が良いと思います。
治療
疥癬虫の駆除
どのような薬でも全身くまなくつけるということが最も大切です。痒いところや皮疹があるところに虫がいるのではなく、なんでもないところに虫はいます。 毒性が問題とされることが多いですが、毒性の少ない薬程付ける回数が多くなるので、治癒までの人体への影響は同じだと考えてください。 いい加減な付け方をすると何時までも治らず薬の過剰投与の原因となります。
薬の付け方
床にシーツ、新聞紙を敷き、全裸となり、首から下の全身に塗って下さい。とくにわき、肘、臀部、外 陰部、指の間は入念に塗って下さい。乾燥後、それまでの衣服を着て、ソックス、手袋をします。 もし、しみるような刺激感がある時は、洗い流して下さい。薬は目に入るといけませんので、薬のついた手で目をこすったりしないように注意して下さい。薬の種類によって塗る回数が違ってきます。
治療薬
オイラックス(10%クロタミトン)
カユミ止めとしての印象が強いオイラックスですが、もともとは疥癬を退治する殺虫剤として開発されました。 本邦では最も入手しやすい疥癬治療薬であることから広く用いられていますが、殺虫効果が弱く、首から下の全身に5日間以上連日塗布しなくてはならず、とくに痴呆高齢者等に使う場合は煩雑である。 またノルウェー疥癬に用いるには効果が弱く、単剤では不適である。本剤も無毒ではないので漫然と使うべきではない。 オイラックスの中にも副腎皮質ステロイドを含んでいるオイラックスHというものもありますが、オイラックスHは疥癬の治療には不適である。 必ずオイラックスを使用するようにする。
安息香酸ベンジル(Benz)yl benzoateオイラックス
独特の臭気のある常温で液体の化合物. 医薬品ではないので、ローション・軟膏に調剤する必要がある。殺虫効果はオイラックスより強く、γBHCより劣る。医薬品ではないので、毒性についての詳しいデータは少ないが、 「製品安全データシート」によれば、蒸気は粘膜刺激性があり、吸入、または経口摂取したり、経皮的に大量に吸収されると咳、頭痛を起こすようだ。工業などの職業曝露でも強い毒性は報告されていない。 生分解性は良好とのことなので慢性蓄積毒性の心配はないと言われています。
5日間全身に付け、 3日目以後は皮疹(ボロ)の上にだけ薬を塗って下さい。
rBHC リンデン(γ-BHC:1,2,3,4,5,6-Hexachlorocyclohexane)
有機塩素系の代表的な殺虫剤の一種で、米国を中心にシラミ、疥癬の治療に世界中で用いられている。BHCは、α、β、γ、δの4つの異性体を持つが、γ-BHCがその中で最も強力で、かつ安全性が高い。日本では昭和46年にDDTともども国内での販売が中止となり、現在は試薬としてのみ入手可能である。純度90%のものが25gで13,000円位(業者が倒産?したため値上がり)で入手できる。純度99.7%で200mgの1アンプルが5,000円位のものもあるが、これはガスクロマトグラフィー用でここまでの純度は必要ない。実際に使用する際は、少量のプロピレングリコールに溶いたγ-BHCをワセリンに混合して1%γ-BHCワセリンを使用する。経皮吸収が少ないのでワセリンが良い。1%γBHCワセリンを患者の首から下の全身に塗布し、6時間置いた後入浴させ洗い流す。1回のみの使用だと卵が生き延びる可能性があるので、7日から10日の間隔をあけて再度塗布する。ほとんどのケースは首から下の2回の塗布で十分である。外用ステロイドの影響等で頭部に皮疹が存在する場合は頭部にも塗布する。手指、とくに爪の間や陰部への塗布が不充分な場合再発することがあるので、注意する。重度痴呆の利用者の場合、複数の職員で丁寧に薬剤を塗布し、薬剤のついた手をなめたりしないように気をつけ、洗浄するまで注意を払う。びらん面などの上皮欠損部には塗布しない。
ほとんど以上で治癒します。
イオウ製剤(ムトーハップ・イオウ軟膏:チアントールなど)
ムトーハップは治療薬としては殺虫効果が弱く、また皮膚を乾燥させる作用が強く、刺激も強いため、疥癬の主たる治療薬として用いるべきではない。とくにノルウェー疥癬を本剤でコントロールすることは不可能である。ムトーハップは一般の入浴剤に若干の抗疥癬虫効果が伴ったものととらえ、乾燥、刺激による皮膚炎が起きない頻度で予防的に使用するのにとどめたほうがよい。疥癬が発生した施設でムトーハップを長期に規程よりも高濃度で使用していたために生じたかぶれが、疥癬の発疹と混同されていることも多い。
イオウサリチル酸チアントール チアントールはジメチルチアントインとジエンスルファドの合剤で有機イオウを含有し、皮膚寄生虫の発育を阻止する効果がある。角質浸透性をよくするためにサリチル酸を含む。サリチル酸に肝障害を起こす作用があるので、全身に塗布する必要がある疥癬ではあまり勧められない。イオウそのものも皮膚への刺激性が強いので、他の薬剤が使用できる場合はそちらを使用したほうがよい。
内服
経口剤としてイベルメクチンがある。最近、諸外国ではノルウェー疥癬等の重症例に使用開始されています。1回のみの内服による有効例が多数報告されています。しかし半年後の死亡例が高いとの報告もあります。
イベルメクチンは2002/12/06付けで薬価基準収載されています.ストロメクトール錠3mg、万有製薬さん、腸管糞線虫症が唯一の適応ですが、2006年4月より、保険適応になりました。
疥癬がなかなか終熄しない原因のひとつは塗り残しだと思いますので、内服ではこの問題は解決されます。
軟膏塗布の労力、時間、人件費を考えると、イベルメクチンは安全でコストパフォーマンスが最も高いと言えるのではないでしょうか.
しかし、乱用すると耐性虫が出てくる可能性があります。事実、1年経った今では80%くらいしか効果がないといわれています。また、もう一つの問題点、キャリアや軽症の患者さん(医療従事者を含む)の治療については個々の事例で考える必要があります。
かゆみなどの症状を押さえる
鎮痒剤としては抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤を使用する。ステロイドは疥癬虫に対する免疫反応を低下させ、かえって悪化させてしまうので、虫体が存在しないことを確かめるまでは絶対使用しない。
予防的治療
接触者の予防的治療 疥癬は人から人へ接触感染する感染症であるので、疥癬に感染した可能性のあるものに予防的治療を試みることで新規の患者発生を抑制しうる。以下のような条件に当てはまる場合には、予防的治療が勧められる。
疥癬患者の同居家族 ノルウェー疥癬患者と接触した場合 集団感染の起こった施設の入所者
予防的治療として行う場合はrBHCは1回で十分である。 オイラックスを使用する場合毎日1回。5日間連日使用する。 安息香酸ベンジルーオイラックスは、毎日1回。3日間連日使用する。
治療 番外
ペルメトリン
ペルメトリンは諸外国における複数の臨床試験でリンデンより疥癬に対して有意に効果が高いとされている。ペルメトリンの副作用はアレルギー性接触皮膚炎をおこしやすいことである。3回以上使用するとかなりの頻度でかぶれる。ペルメトリンはその安全性と有効性から、海外の多くの臨床家から第一選択とみなされており、欧米ではすでに5%ペルメトリンクリームが発売されている。個人輸入で医師が入手できる(通関時医師免許のコピーが必要)。
